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「え? の、乗る? もー、ジュヒちゃんたら積極的だなぁ☆」
「キャハハッ! 違うよー! 乗るじゃなくって、の・ろ・う♪ くちへんに兄の呪うだよー!」
「…………」
こ、この子は一体、何を言ってるんだ――? 握っていた手を恐る恐る離し、代わりにドアノブに手を掛ける。
「……お前は……お前は一体何なんだ……?!」
「えー? もー、しょうがないなー。もう1回しか言わないから、耳の穴かっぽじってよーく聞いてよー?」
体中を冷や汗が伝う。ゴクリと唾を飲む音とバクバクと高鳴る心臓の鼓動がやけに耳について五月蝿い。不安と恐怖で身動きが取れないでいる俺をよそ目に、彼女は笑顔のまま、口を開いた。
「――あたしは貴方を呪う者、呪妃。貴方、元カノさんから呪いかけられちゃったのよ♪」
「ふざけんなぁぁぁっ!!!」
勢いよくドアを閉め、俺はぜぇぜぇと荒く呼吸をする。呪いをかけただと?! 楓が?! 俺に?! まさか!! と思うと同時に、楓との関係が終わった日、別れ際に彼女が呟いた言葉が鮮明に耳に蘇ってきた。
呪ってやる――
そうだ、あいつは確かにそう言った。でも呪いなんて現実に有り得るのか?! しかも仮に本当に呪いをかけられたとして、あの日別れたそもそもの原因は楓の浮気にあるのだから、こんなの逆恨み以上の何物でもないじゃないか!!
あまりに不条理で、俺は力無くうずくまる。呪われる、ということが具体的にどういうことなのかは分からないが、やっぱりそこにあるのは死――なのだろうか。
――待てよ。
そうだ、俺は呪いについて何も知らない。どんな呪いをかけられたのか、呪いはかけられたらもうどうすることもできないのか。もしかすると、逆恨みで呪いをかけられたのだと言ったら、効力はなくなるかもしれない。俺はゆっくり、さっき自ら閉めたドアへと視線をやった。
ジュヒはドンドンとドアを叩いては、「ちょっとー! 開けてよー!」などと宣っている。俺は立ち上がり、そっとドアに近寄ると、外の彼女に声を掛けた。
「ちょっと、聞きたいことがあるんだけど」
「え? 何ー?」
「いや、呪いって具体的にどんなものなのか、とか、1度かけられたらもうどうしようもないのか、とかさ」
「えー、そういうのも全部ちゃんと説明するからさー、開けてよー」
「……」
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