6/7
前へ
/7ページ
次へ
父が出ていった後、玲音は整頓された部屋をじっと見つめる。 投げ付けられた酒瓶は、玲音の心のように綺麗に粉々に割れた。しかし、その瞬間にロボットの手によってそれは片付けられ、今はもう跡形もない。 鼻が痛い。血が垂れる。 これだって、後でロボットが拭いてくれるだろう。 ―――母さん、ごめん。 玲音は、病院に居る母さんにそっと想いを馳せた。 玲音の母さんは、病気だ。正確に言えば、“病気じゃない”。 確かに、大変な持病を持って入院している。 しかし、そんなの今の日本国の医療を持ってすれば直ぐ治るはずだ。 入院を長引かされている理由―それは、母さんが伝染病に感染しなかった事だ。 日本国では、酷い感染病が少し前にコウチという地域で発生した。国は、急いでコウチに人々を閉じ込め、塀を作り、コウチの周りを殺菌した。 あいにく…コウチに上級・中級家庭者が居なかったから… 下級家庭者達は、中で泣き叫んだ。出してくれ、痛い、苦しい、そんな叫びも塀に遮られた。 母さんは、そんなコウチの中に入り込んだのだ。大きな救急箱を幾つも抱えて。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加