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父が出ていった後、玲音は整頓された部屋をじっと見つめる。
投げ付けられた酒瓶は、玲音の心のように綺麗に粉々に割れた。しかし、その瞬間にロボットの手によってそれは片付けられ、今はもう跡形もない。
鼻が痛い。血が垂れる。
これだって、後でロボットが拭いてくれるだろう。
―――母さん、ごめん。
玲音は、病院に居る母さんにそっと想いを馳せた。
玲音の母さんは、病気だ。正確に言えば、“病気じゃない”。
確かに、大変な持病を持って入院している。
しかし、そんなの今の日本国の医療を持ってすれば直ぐ治るはずだ。
入院を長引かされている理由―それは、母さんが伝染病に感染しなかった事だ。
日本国では、酷い感染病が少し前にコウチという地域で発生した。国は、急いでコウチに人々を閉じ込め、塀を作り、コウチの周りを殺菌した。
あいにく…コウチに上級・中級家庭者が居なかったから…
下級家庭者達は、中で泣き叫んだ。出してくれ、痛い、苦しい、そんな叫びも塀に遮られた。
母さんは、そんなコウチの中に入り込んだのだ。大きな救急箱を幾つも抱えて。
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