第四章 30年の怨み

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   そのポーズは、黙秘権行使の意思表示だった。 「また、黙秘かよ。隣の部屋では西口の嫁さんが、全部話してるんだ観念したらどうだよ」 「…………」 「あのな、黙秘するって事は、自分の首を締める事になるんだぞ」  ここで、峰山が初めて口を開いた。 「黙秘……」  矢次を完全に馬鹿にしたように、人を食った態度で彼の正面で、だらしなく座っている。  何があっても、話す気は無いようだ。  取り調べは、30分交代で刑事が行ってるが、峰山の口は、まるで開く事を拒絶するように開かなかった。 「いやぁ、参りましたよ。ここまで頑固とは思わなかった」 「矢次、そんなにか?」 「北さんは、いいですよ。西口 由貴子は、素直に自供してるんでしょ? こっちは、人形にでも話してるみたいですよ」 「ははっ、そいつは厄介だな」  取り調べから解放された二人が、刑事課で顔を合わせてそんな会話をする。  年齢的には矢次の方が若いのだが、疲れているのも矢次であると、誰の目から見ても分かった。
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