かこ 二つ

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 ピルを飲み忘れたことに気付いたのは、社員寮に帰って来てからだった。  久々に恋人との休みが二日重なり、温泉巡りなどして二人きりの時間を満喫した揚げ句だけに――天から谷底に落ちたような気分でケースの薬を数え直す。  薬は三日分、余っていた。自分が処方されていたピルは、一日飲み忘れたら次の日に二錠飲んで取り戻せるが、三日飲み忘れたら破棄して次の月まで待たないといけない物だった。  ひんやりと背中が冷たくなる。けれども、すぐに楽天的思考に切り替えた。 (そう簡単に、できてしまう筈がない)  そう、開き直った――その一月後。来るべきものはこなかった。  薬局で試薬を買い、トイレで確認する。 「……甘かった、か」  私はすぐに恋人にメールした。 『ピル飲み忘れてて、できちゃったみたい。次の仕事休みに産婦人科行きます』  六勤二休で三シフトこなしていた私の頭の中には、『中絶』の二文字しかなかった。  産んで育てられるような自信はまるでなかったのだ。全ては、薬を飲み忘れて、恋人と有頂天になったツケが回ってきたのだと――腹をくくった。
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