戦雲至る

1/6
前へ
/66ページ
次へ

戦雲至る

迷いの晴れた、陳登の働きは目覚ましかった。 華キンと話して数日後には、旅装の陳登は、僅かな供を連れて徐州城を出た。 領内の各地を巡り、その至るところで土地の古老を訪ない、気候風土について教えを請う。 領民は、当初、陳登の意図を訝った。 彼らは、一々領民に意見を求める為政者など、見たこともなかったのだ。 また、何か搾取を強めようとしているのではないか。 そんな噂も立ち、忌避されることも多い。 官民の乖離もまた、深刻なのだ。 しかし、陳登は諦めない。 辞を低くして何度も訪ね、熱心に自らの所信を説いて回った。 至誠は天に通ずると云う。 やがて、その真摯な姿に打たれた人々は、徐々に心を開いていった。 この風変わりな民政家の話しは諸方に広がり、人々は、陳登が至るのを首を伸べて待つようになる。 陳登は、聞き知ったところを具に記録し、その土地に最も適した作物を探し出し、実験の上、根付くことが判ると、人々に推奨して農耕を推し進めた。 また、社会問題化していた流民に、生活を保障して、土木事業に従事させ、堤を作り用水を引き、潅漑を行わせて、新たな耕作地を拓いてゆく。 流民も土地に定着し始め、離散した人々も戻り始めた。
/66ページ

最初のコメントを投稿しよう!

129人が本棚に入れています
本棚に追加