戦雲至る

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大地が緑を取り戻し、州の倉廩が満たされ始めた頃、眼下に広がる沃野を望む陳登の傍らで、 「もう二度と見られないものと思っていました。」 と落涙しながら、大地と陳登とを代わる代わる伏し拝む老いた農夫の姿に、陳登は、為政者となってから初めて泣いた。 この人達の生きる場所を奪ってはいけない… 株や麦ばかりではない、人もまた、この大地に根差して生きているのだから。 この間にも、忙しい仕事の合間を縫うように、陳登は、しばしば華キンを訪問している。 情誼に厚い陳登は、常に華キンの消息を気遣かっていたのだ。 華キンもまた、陳登に各地の情勢を伝えた。 今、天下は群雄割拠の様相を呈している。 陳登は、華キンの推測の正確さに改めて驚かされる。 だが、短期間のうちに、荒れ果てていた徐州の農業を、見事に復興させた、陳登の実際家としての手腕に、華キンも舌を巻くのであった。 しかし、天は、華キンのような大才に、いつまでも閑居を許さないのであろう、豫章大守に任ぜられ、任地に赴くこととなった。
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