戦雲至る

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機を見るに敏な曹操は、兵糧不足が深刻化する前に素早く兵を退いて去った。 陳登は、曹操の手際良い撤退にも感心する。 並の将であれば、折角今まで攻略してきた都市を、あっさり放棄して去ることをためらってしまうだろう。 しかし逡巡するうちにも、兵糧不足は進行するのだ。 手遅れになってしまえば、飢寒した兵を抱えて、敵中で進退窮まるだろう。 どうせ維持できないならば、思い切りよく諦めて去るのが上策である。 曹操軍が去って後、各地の被害状況を確認したところ、兵力は多く失われたが、領民や農地などの被害は軽微であった。 曹操は、目的に沿った軍事行動に徹していたのだ。 彼が求めるのは、無人の焦土ではなく、徐州の豊かさである。 だから徒に戦火を拡大させなかったのだ。 「これが名将の戦さというものか…」 陳登は、その鮮やかな兵の進退に改めて瞠目の思いを抱いた。 だが、陳登も徐州の人々もその曹操の苛烈な一面を思い知ることになる…
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