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孤剣の英雄
陶謙は、曹操軍が去ると、すっかり気を許したようで、陳登が、曹操軍の兵站を撃って撤退に追い込んだとして、大袈裟に讃えた。
陳登は、謝辞を述べながらも、陶謙の戦略眼の無さに危惧を覚えずにはいられない。
「曹将軍ほどの名将にしては、兵站に対する配慮が無さすぎたのではないか。別に考えがあるはずだ。」
と注意を促すが、陶謙は、
「油断したのだろう。」
と一笑に付しただけであった。
陶謙の元を辞すると、別駕の縻竺が、笑顔で近づいてきた。
別駕とは官名で補佐官の謂いである。
つまり州刺史陶謙の補佐官なのだが、この縻竺という男は、一風変わった補佐官だった。
政治的な才能があるわけではなく、兵を率いることが出来るわけでもない。
取り立てて秀でたところがあるわけではないが、代々続く豪商の家に生まれ、その莫大な資産は、州の財政の一端を支える程であったが、当の縻竺はそれに驕る風もなく、常に無欲恬淡としていて、あくまで謙虚で誠実だった。
その縻竺が話しかけてくる、
「この度は、大層お手柄でしたね。」
「刺史からも過分なお言葉を賜りましたが、あれは、私の手柄ではありません。」
陳登は、縻竺の無邪気な笑顔に向かって答えた。
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