~序章~

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晩秋の一夜、劉備は招かれて劉表の宴席にいた。 その夜の客は多くはなかったが、席上に居並ぶ人氏は何れも荊州一円に名の知れた人物達である。 劉表は寛いだ様子で、 「なに、特別の用事があるわけではないが、珍しい酒が手に入ったのでな。日頃から懇意の諸卿らと、酌み交わしたいと思ったのだ。」 と説明した。 荊州は交通の要衝に当たり、物流の盛んな土地柄で、各地の産品が集まってくる。 劉備も時折、こうした酒宴に招かれていた。 劉表は、慎重で猜疑心の強い一面はあるものの、概して鷹揚な人柄であり、宴席の取り回しなどは上手かった。 和やかな空気の中で、酒が席を数巡するうち、話はいつしか古今の人物に及ぶ。 この時代には、人が集まると閑話の折りに、そこかしこで人物論評が行われていた。 流行だったのかもしれない。 座中の一人が、広陵の陳元龍を話の俎上に載せた。 すると許シという者が、 「陳元龍は、傲慢不遜な男だ。」 と主張した。 劉備は、 「その評価はいかがでしょうか。」 と劉表に尋ねたところ、劉表は、 「その評価が間違っているというには、許シ殿は立派な方だから、いい加減なことを言わないだろうし、正しいというには、陳元龍もまた、人傑として聞こえが高い。どうなのだろうか?」 と考え込んでしまった。 或いは酒席の纏め役として、答えることを遠慮したのであろうか。
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