~序章~

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劉備は許シに、 「貴方が陳元龍を傲慢不遜だというのには、何か理由があるのですか。」 と尋ねたところ許シは、 「私が陳元龍を訪ねたとき、彼は客を饗す作法を心得ていなかった。それどころか言葉を交わすことすら無かったのだ。」 と言う。 劉備はなぁんだとばかりに、 「およそいかなる名琴でも、琴線に触れなければ、その音色を聞くことは叶いますまい。」 と言い、更に、 「陳元龍ほど高い志を持ち、文武に秀でた者は、上代ならいざしらず、今の代に比較できる対象は見つからないでしょう。」 と続けた。 どうやら許シという人は、劉備の見るところ国士との世評のわりに、日頃から財貨だの名誉だのといったことにしか関心の無い人だったようだ。 劉備は徐州に居たころ、陳元龍と語らって大いに意気相投じた。 以来互いに認めあう、いわば知己の間柄だ。 陳元龍の慧眼が、許シの人となりを見抜いたであろうことは想像に難くない。
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