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『みんなに聞きたいのはね、たいして重要なことではないんだよ。そこで君たちはなにをするのか、僕は知りたいだけだからね』
園長はそう言うと、ニッコリと屈託の無い笑顔をみんなに向け、園児の視線を一身に受ける。
周りに小突き合う輩は、もはや一人たりともいなかった。
『そのリンゴを食べてしまってもいいし、食べずに通りすぎてもかまわないんだ。……さて、みんなはどうするかな?』
園長はさりげに右手を挙げ、園児達に解答を求め始めていた──我先にと子供達は、一斉にその手のひらを園長に向けて。
『おなかすいてるなら食べる!』
『木がかわいそうだからー、あたしは食べないっ』
彼は適当に園児達を指名していく。しかしその解答は、すべてそのどちらかでしかなかった。
次第にその手のひらはどんどん無くなって、最後には誰も挙手しなくなってしまったんだ。
『君は?』
と、そこでだ。
その指で園長は、終始うつむきを貫いていたオレを指し示した。
『君は手をあげていないね。君ならいったい、どうするのかな?』
周りの保育士達は、少しざわつき初めていた。それがより一層、胸中の不快を増幅させた。
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