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とある世界、とある国。
ある処にひとりの人外がおりました。
彼が何者だったのか知る者はありませんが、彼は確かに人ではありませんでした。見た目も心も仕種も認識も、何一つ。
人外はある日、疑問を抱きました。
──何故人間はあんなにたくさん仲間がいるのだ。
──何故人間はあんなにたくさん顔を歪めるのだ。
──何故人間はあんなにたくさん物を持ちたがるのだ。
何故と考えだせばキリがない、けれど考えずにはいられない。今まで解らない事など何一つ無かったのに、こと人間に関しては何一つ解らない。
いつしか人外は『人間を知りたい』と強く思い始めました。
──どうすればあんなに沢山の仲間が出来る?
──どうすればあんなに沢山の表情を造れる?
──どうすればあんなに沢山の物を持てる?
人の街を眺めても、人に化けて人の中に入っても疑問は解けず、それどころか増えるばかり、頭を悩ませるばかり。
いつしか人外は『人間になりたい』と強く願うようになりました。
けれど、人外は人外です。
人間には成り得ません。
それを誰よりもよく知るのは外ならぬ彼自身なのです。
人間になりたい。
人間として暮らしてみたい。
朝も夜も、食事の時も眠る時も、夢の中でさえ人外は強く強く願います。
けれど望みが叶うはずもなく、人間になった夢から覚めるたび人外はひどい落胆に襲われました。
そうして十月十日が過ぎた頃。
人間になるのを諦めきれない人外は、長い長い苦悩の末に一つの結論に辿りきました。
──人間になるのが無理ならば、自分が人外である事を忘れてしまえばいい。
──人間と同じ姿のたくさんの仲間と暮らし、彼らと共に様々な事を感じ、様々な物を得る。
──それらが皆、人間の姿の者によって行われるならば、それは人間の所業に相違ないのだと。
人外は旅に出ました。
人間が一人もいない地を目指し、そこに街を築くため。
その旅の果てに人外がどうなったのか、知る人は誰もいないと云います…
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