無口なあなた/越前

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好き合ってたら想いが通じるなんて、マンガやドラマの中でだけ。 そんなことを本気で信じる人間がいるとしたらきっと呆れて物も言えないだろう。 可愛げの欠片もないあたし。 だからいつだって目に見える愛情が欲しかった。 「あたしのこと好き?」 「うん。」 「どのくらい好き?」 「言葉じゃ上手く表せない。」 そんな繰り返しにいい加減愛想も尽きる。 あたしの顔すら見てくれない、あなたの興味はあたしじゃない、左手のラケット。 何で付き合ったの?あたし達。何で“いいよ”なんて言ったの?あたしがこの気持ちを伝えたとき。 「…別れる、 あたしはリョーマが分からない。」 違う違う。 こんなこと言いたくない。 分からないんじゃない、分かろうとしないだけ。 「好きじゃない、リョーマなんて。」 違う違う違う。 好きで好きで仕方ない。 離れたくない、ずっとそばにいてよ、あたしだけを見てよ。 しゃべらないで、勝手にしゃべらないで! 走り出した足は止まらなかった。あたしの体があたしじゃなくなってく。 どんどん真っ黒い雲が広がって、本当の気持ちを覆い隠す。 悲しかった、苦しかった、辛かった、寂しかった。 一緒にいる時間がどんどんあたしを醜くする。 ねえ、あたしはリョーマの何? 「別れる気ないから!」 捕まれた右手が痛かった。 見たことない、普段の冷静な彼じゃなかった。激しく肩が上下している。 欲しかった視線はただ真直ぐあたしに向けられた。 「あんたがいるから俺がいる。あんたがいなくなったら、俺生きる気力なくなる… あんたは俺の全てだから。」 だから、別れるなんて有り得ない。 言って抱き締められたとき、震えていたのは彼の方だった。 「あたしのこと好き?」 「うん。」 「どれくらい好き?」 「言葉で上手く表せない。 …けど、あんたがいない世界は有り得ない。」 それで十分。 無口な彼の存在自体が、好きでいてくれる何よりの証拠。 そんなことすら気付けなかったバカで子供なあたしは、心底幸せ者だった。 通じ合う、信じていれば。 「リョーマ、大好き!」 *END
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