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さっきお弁当食べたばっかりじゃん、なんて通じない。
その手には焼きそばパン。
机の上にも10個近くパンが山積み。恐らく差し入れ。
これまた、食べ方がおいしそうに見えるから、つい与えたくもなるんだろう。
「おまえ、よくそんなんで足りるよな。」
あたしの目の前の小さな弁当箱を言ってるらしい。
もともと二段だったのを一段にし、更に真ん中でご飯とおかずに区切ったそれは質素極まりない。
「…女子には譲れない悩みがあるもんなの。」
夏が近付いてるっていうのに、揺れる二の腕と太ももが否めない。
最近は受験生だなんて理由付けて、専ら家に引きこもる生活だからか運動量も格段に減少した。
そもそも体を動かすのが嫌いだし。
そういうもんか、と興味なさげに返事をする彼は、既に2個目のパンを完食していた。
こいつの体がうらやましい。
これだけ大食らいのくせして、適度に引き締まった細身の体型が納得いかない。
神様って不公平。
「その分運動してっから当然だろぃ。
むしろ運動量の方が半端ねーよ、こんなんじゃ割に合わねーって。」
不満そうに机の上の食料を指差すブン太、相変わらず口はモグモグ止まらない。
その手に持つめろんパン、4個目。
最早自分の昼食を終えて手持ちぶさたなあたし、もちろん足りる訳もなく。ふわりと甘いにおいに刺激され、ついお腹が鳴る微かな音。
「体は正直だなー。」
「うっ、うるさい!
あれだあれ、消化してる音!断じてお腹が空いてるわけでは…」
キュル…
あー、情けない。
再び今にも消え入りそうな小さな音を醸し出す。
ええい、静かにしろーバカ腹の虫ー。
一人で胃袋と格闘してる間に、丸井さんめろんパン完食した模様。
あああ…めろんパンforever…。
僅かな期待虚しくブン太の胃袋へ消えていっためろんパン。空腹で頭すら回らなくなってきた。
「うはー。」
机に伏すと目がぐるぐるした。ダイエットも限界かな。
ふと、後頭部に衝撃。
起き上がると先ほど旅立っためろんパンがぽとりと机の上に降り立った。
「おおっ、
お帰り!めろんパンナちゃん!」
「腹減って頭狂ったか。」
にかって白い歯見せつけて笑うブン太くんもたまには良いとこあるじゃない。
格好悪い醜態晒しても、強気なのが可愛くない自分。
「ま、もらってあげてもいいけど。」
「心は素直じゃねえのな。」
赤髪の大食い野郎が、その時だけは天使に見えたって話。
*END
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