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タバコは吸うものであり、生命を維持する為の呼吸と同じ様に必要となって早幾年。
だからと云って不可欠かといえば、寧ろ百害あって一利無しの代物であり、実際こんなものを吸い続けたところで寿命を縮める結果になる。
日々ニコチンを摂取し続けた私は、「give me heroin」と胸を引っ掻いたシド・ヴィシャスと何ら変わりない、重度の中毒者に成り下がったのだ。
健康になりたいとは思うが、それでも一日一箱は必ず消費しているのだから、例えるならば「痩せたい」とか言いながらファミリーサイズのカップアイスを抱え、チョコレートシロップを空になるまでぶっかけて、汚れた口を化学甘味料の入れすぎで薬品みたいなA&Wルートビアで洗い流すデブのアメリカ人みたいなものだ。
「果たして、そんなベタなヤツが今時居るのかねぇ……?」
アイスキャンディーをかじりながら、車を運転する武藤さんが呟いた。
「あくまで例えだよ。中学の時、社会科担当の先生が話してた」
少し開けた窓の隙間を目掛けて、紫煙が飛んでいく。
強い流れに抗えず吸い込まれるその様は、正に人間そのものを表しているのではないだろうか。
どんなに努力していても、大多数の人間は逃げられない「現実」という嵐に巻き込まれ、目的を忘れ潰える。
幸か不幸か足掻き続けた結果、その流れに乗らなかった一握りの人間が時に勝者となり、煙の身体は見事後部座席に居る大紀の喉に侵入し、咳き込ませる事に成功しているのだ。
それが目的なのかは別として。
要するに、バンド内で唯一タバコを吸わない彼からすれば、非常に迷惑だという話だ。
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