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それにしても、大紀が咳込む回数が多い。
私も武藤さんもタバコを吸う時……特に車内等の狭い場所では、煙が当たらない様気に掛けてはいるものの、何だか申し訳なくなってくる。
いっそのことタクシーみたいに、シートの真ん中にプラスチックの仕切りを付けるか、空気清浄機の導入を考えるべきだろうか。
決めるのは、このクルマの持ち主である武藤さんだが。
「……大丈夫?」
「ん~、いや……なんか風邪ひいたみたいで……」
どうやらタバコの煙が直接的な原因ではないらしい。
云われてみれば、最近やたらと鼻をすすっていたり、冷房を寒がってたりしていた。
今も咳込むその様は辛そうだ。
半分程吸い終わったタバコを灰皿に押し付け、改めて彼の様子を伺う。
早寝早起きを心がけ、毎朝ランニングをこなして出勤する、そんなメンバーきっての健康体である彼の顔からは血の気が失せ、疲れきったように俯いていた。
「珍しいね、風邪ひくなんて」
「……最近夜勤続きだったから、そのせいもあるかも」
「熱は?」
「ちょっと高い……頭痛いし、節々も痛い」
時々鬱陶しく感じる位に大きな声も、鼻づまりのせいか弱々しく濁り詰まっている……まるでお手本みたいなひき方だ。
「オイオイ、移すなよ」
「あ~……うん、努力す……ゲホゲホッ!!」
「うわっ、唾飛んできた!!」
騒ぐ武藤さんを横目に、私は持ち合わせの薬が有るかとバッグの中を漁った。
頭痛薬、酔い止め、睡眠薬……気休めのビタミン剤。
あまり役立ちそうなモノはない……あ、のど飴ならあった。
微妙に溶けてるけど。
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