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誰がいつ決めたのか、今年は冷夏になるらしい。
「冷たい」「夏」と書いて冷夏。
つまり例年より涼しくなると予想されているということだ。
だけど、夏前の東京は例年通り蒸し暑く、馬鹿の一つ覚えの様に真っ白に降り注ぐ太陽光はアスファルトやビルの窓に反射して、行き場のない熱気は右往左往する地上の人間達を密閉する。
結局変わり映えのない、七月上旬。
まだ梅雨明けは宣言されていない。
冷夏と云われて騒ぐのは、農家位なものだろう……。
私には関係無い。
関係していたところで、天候相手に足掻く術も無い。
そう、確かに関係が無いのだ。
この街を行く、ギターを背負った彼女には関係ない。
何処かでまた殺人が起きたとか、政治家の献金問題が発覚したとか、芸能人カップルが破局したとか、今日の野球の結果とか、そんな情報を発するテレビには関心が無く、先日窓から放り投げたところだ。
かくいう彼女。
肩に垂れる銀髪を揺らしながら考える。
人生を左右する劇的な出会いがあるわけでもなく、自分に隠された能力が目覚めるわけでもなく、遠くない未来に目指すべき目標があるわけでもなく、そしてそれらを求めるわけでもなく、ただ日々を何気なく消費している。
別に何も思わない。
「刺激が無い人生なんてつまらない」とよく云うが、そんなものが欲しいなら週刊漫画でも読むか、身体に針でも刺していればいい。
きっと日常では味わえない刺激を体感出来るに違いない。
そう、関係が無いのだ。
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