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温かいカフェオレを飲みながら頭を抱えていると、不意に重なる影1つ。
光量が落ちた視界に違和感を覚え、ふと顔を上げてみるとそこには見知った顔……黒髪短髪の背が高い男が、ドーナツを大量に載せたトレーを持ってほくそ笑んでいた。
「おっす。歌詞出来た?」
「見て分かるでしょ……」
「分からんっ」
彼は私の前の椅子にドカッと座ると、ムシャムシャとドーナツを頬張り始めた。
見ているだけでお腹一杯になるような山盛りのドーナツ……大紀と云う名だけあって、態度もデカければ身体もデカい。
それでも太らず縦に伸びるのだから、不思議なものである。
「また凄いの書いたもんだね。お前は世の中に何か恨みでもあるのか」
彼はケタケタ笑いながら、先程書き上げた中二文章に目を通す。
ノートを見るのはいいけど、せめて手についたチョコを拭いてからにしてくれないだろうか。
しかし、世の中に恨みがあるとは些か検討違いだ。
仮に意味があるとすれば、自分の挫折や劣等感……言い換えてしまえば先程の自問自答は意味を成さず、結局は逆恨みになるのだろうか。
だとしたら恨みには違いないとは思うが、今までの短い人生で逆上に駆られた経験はあまりないので。
「別に意識して書いたわけじゃないんだけどね」
私がそう言うと、彼はははっと乾いた笑いを飛ばす。
そしてまた何事もなかったようにドーナツを口に運び出した。
しかし、見据えているのはドーナツではなく、私の眼……。
「ん……なに?何か顔に付いてる?」
「いや、なんも」
「………?」
「俺はどんな曲でも、お前が書いた曲なら文句ないよ。お前の曲大好きだし、それで俺の力を必要としているなら、いくらでもドラム叩くからさ」
臭いセリフを爽やかに言えてしまう辺り、彼の男前な性格がよく出ている。
一つ年下だし、口の周りにチョコ付いてるけど、兄貴と呼んであげよう。
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