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「ん、やはり咲の作る料理は美味い」
光朗は、咲の作ってくれた料理を頬張った。
嬉しそうに料理を食べる光朗は、まるで幼い稚児のようで、咲はフフ、と笑う。
咲は、光朗の幼い部分が好きなのだ。
光朗は立派な大人で立派な夫だが、こういった素直で汚れを知らないような笑顔は、あらゆる者を魅了する。
といっても、光朗は咲以外のことには無頓着だ。自分のことなど微塵も理解してはいない。
ここは小さな村の中だ。
夜中、他人の家に上がり込んで夜這いをかける者も少なくはない。
咲は幸せな中でも、少しだけ不安を感じていた。
「んっ、御馳走様っ」
茶碗を置いて、光朗はパンッと手を合わせる。
光朗のために食後の茶を煎れながら、咲は小さく口を開いた。
「あの、あなた様」
「ん、なんだ」
小さな湯飲みを光朗に渡し、その向かい側に座ると、咲は光朗を真っ直ぐに見る。
「あの……お菊さんから聞いたのですが、京に物の怪が出たと」
「……物の怪?」
よく解らないといった様子で、光朗は首を傾げた。
物の怪というのは、餓鬼のことだろうか。
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