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「はい、なんでも、強い鬼が京を騒がせているとか」 「んん、そうか、鬼……」  光朗は眉間に皺を寄せ、自分の顎を掴んで唸った。  〝鬼″は、餓鬼などとはまた別のものである。  餓鬼というのは、人が死した後に黄泉の王より裁かれ、それぞれ罰を与えられた者たちであり、その姿は様々だ。  少しは困るものだが、あまり人に害を与えるものではない。  そして〝鬼″は人の心に入り込み、苦しみを与えたり悪い行いをさせるものだ。  強いもの程、その苦しみや行いの程度は悪化する。 「ここは京から遠いですし、安全だとは思うのですが……」  咲は眉を八の字にして、光朗の着物の裾を掴む。  これは、咲が不安だったり悲しかったりする時の仕草だ。 「咲、大丈夫だ。何があっても咲だけは守ってみせるっ」  咲を安心させるために、光朗は笑顔で咲の頭を優しく撫でた。 「あなた様……」  たちまち頬を赤くさせた咲を愛おしく思い、光朗はその額に唇を押し当てた。  ひくりと肩を震わせた咲だが、光朗の温もりを感じたくなり、おずおずと彼の背に手を回した。 「咲は可愛いな」 「そんなことは……」  抱きつきながらも恥じらいを見せる咲は、本当に愛おしい。  光朗は、おそらく咲以上に愛おしい者などいないだろうと思う。  咲も同じく、光朗以上に愛おしい人はいないのだろうと考えた。  墨を塗ったような空には、二人を見守るように白い月が柔らかい光を放っていた。
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