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早足で歩くものの、荷物を持った咲の歩く早さよりも夕日が落ちるほうが早い。
空が紫がかり、遠くの方では濃紺の色が迫ってきていた。
どんどんと薄暗くなる中、咲は沈む夕日の中に影を見た。
「ぁ……」
咲の背筋が凍る。
その影の正体は逆光によって明確ではないものの、咲にはそれが〝人でないもの″にしか見えなかったのだ。
体が強張り、瞬きもできないまま、咲は浅く息を繰り返す。
影がゆらりと揺れ、咲はヒュッと息を呑んだ。
足が小刻みに揺れ、逃げろ逃げろと本能が騒ぎ立てる。
桜の花が面前を掠めるのと夕日が消えるのは、同時だった。
「っ!」
──暗転。
咲の視界は、淡い桜の色から闇へとなる。崩れ落ちるようにして、咲は小石の散らばる地面へと倒れた。
──咲!! 咲っ!!
咲が倒れる寸前、誰かの声がした。
誰? 私を知ってるのかしら。
でも私は知らない──何もわからない。
薄れゆく意識の中、咲は近づいてくる足音に懐かしさを感じた。
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