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「……よし」
もう少し暖かな布団に足を暖めていたかったが、ベッドの横に置かれた小さなテーブルの、その上に置かれた液晶型の目覚まし時計を見て起きるべく声を上げる。
すると腹へ相変わらず腕を絡ませた落合が力を込めた。
……可愛い…
なんだこの可愛い生き物は。
金髪に指先を絡めて跳ねる毛先を遊びながら、僕の頬は緩む。
ふと、思った。
彼と離れて笑っている僕。
昨日まで彼の部屋で起き、生活している時間……僕は一回だって笑ったろうか?
彼のいない部屋は広く、大きくて、いつも僕は孤独とあの家に住んでいた――
「あやぁ…」
尾を引く甘えた声に、僕の頭に広がっていた彼の部屋がさっと掻き消えた。
「ぇ……あ、なに?」
「お腹空いた」
「…………で?」
「作って」
ぶっ
思わず吹き出して笑う。
少し唾が飛んで口元を押えた手の平に消えた。
本当に…なんだろう、こいつは。
僕が彼を考えている時にタイミング良く僕を引き戻す。
だから僕は案外笑えているのかもしれない。
これ以上、彼を思い出していたら…本当に笑えないことになる。
追ってこない彼に、打ちのめされる。
「いいよ、パンはあるかな?」
金髪が揺れて肯定を示す。
指先をその髪から離すと腹に絡まる腕を解いて布団から脚を出しベッドから起きる。
その際毛布をひっぺ返して全裸の身体に羽織ることも忘れない。
「取りあえず、僕の服は?」
「酒零してたから洗った」
「……下着まで?」
「それはついでに」
にやり、と音が聞こえそうなくらいベッドの上で俯せになり僕を見上げていた落合の唇が吊り上がる。
その悪戯が成功したような子供の笑みに、一人っ子で育ち、年下の子供と触れ合った記憶が小学生で終わっている僕は思わず引きつった笑みを浮かべたに違いない。
とにかく、昨日の事をきちんと整理すべきだ。
服を酒塗れにした記憶などない。
しかし、頭痛もしなければ吐く息もそれほど酒臭くないのだ。
どうして青年の家にいるのか分からないので、記憶に少々問題がある。
僕はのそのそ起き上がる金髪のような茶髪に目を向ける。
とりあえず、整理が必要だ。
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