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チン、と音を立てて香ばしく焼き上がったパンがトーストから跳ね上がる。
僕はそれを横目で見ながらベーコンの細切りと卵をフライパンの上で掻き混ぜ、トースト用の皿を目で探す。
「これ」
と、下着だけ穿いた落合がそんなに大きくは無い食器棚から白で光沢のある皿を取り出し僕に向けた。
「あぁ…ありがと。その皿にパン置いて」
「…ただのトースト?ジャムない」
唇を尖らせてそう呟く落合は本当の子供みたいで可愛い。
また吹き出しそうになるのを堪えて、更にトーストを置く相手から視線を外し火を止めた。
塩胡椒の味付けはしたし、もう良いだろう。
落合から皿を受け取ればマヨネーズを出すよう指示してそれをマーガリン替わりに塗り付ける。
その上にスクランブルエッグを乗せて更にマヨネーズを塗ったパンで挟み込み、ちょうど良いサイズのタッパーで押さえ付け耳を切る。
「ほら、出来た。で、僕に服貸してくれない?」
「うーまーそー…サンドイッチだっ」
「……僕に服」
「いただきますっ、うまぁ……」
キッチンに立ったまま皿を流しに置いてバクバクと豪快に食す落合に、僕は呆れた視線を向ける。
本当…どんな成り行きでこいつと一緒に寝るはめに?
腰に巻いたシーツに手を掛けながらじっと見つめ、昨晩の事を思い出そうとする。
パンを食べ終わり親指をぺろりと舐める落合と目が合う。
にっこりと、微笑んだその表情は何故だか泣きたくなるような笑顔だった。
「服な、ちょっと待てよー?」
聞こえていたらしい僕の声に従いキッチンを出て寝室に向かう落合。
そう言えばここはマンションの一室のような作りで、けれど落合1人が住むにはデカ過ぎる2LDKだ。
行儀のいいことではないと分かっていても落合の後を付いて行きながら周りをつい見てしまう。
「これ着な。あの目覚まし時計壊れてるんだ、今は昼過ぎ。間に合わないだろ?」
「……なんでそれを早く言わない」
「面白そうだったから。…なぁ?俺を覚えてねぇの」
へらりとした表情が僕の顔を覗き見る。
けれどその顔は昨日初めて見たものだ、知っているはずも無い。
記憶を探っている時、落合の整った顔が近付いてくる。
唇が触れていた。
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