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「な、なな……!!」
一瞬の間を置いた後重なっていた唇の熱に驚いて身を引けば、仕掛けた本人は涼しい表情で自らの唇を舐めている。
その仕草が色っぽく、思わず見惚れそうになった自分を叱咤して落合から離れる。
「……なに、すんだよ」
「なにって、キス。昨日はもっと凄いコト、したろー?」
にやにやと完全に面白がっている笑みを浮かべて、含ませた言い方で僕を見る落合にペースが崩されていることを今更ながら知る。
朝食……いや、正確には昼食だったトーストを作るまでは僕のペースで、物事を整理しようと作り上げた緩い空気はもう落合のそれに飲み込まれていた。
劣勢の状態では何を聞こうとしても躱されるに違いない…今、落合が纏う雰囲気は目覚めた時の可愛らしいものからズル賢く、黒いものとなっている。
それを忌々しく感じながらも、大学に登校出来ず無駄になった時間を有効に使わせて貰うことにし、上手く躱されると分かっていても状況整理に当てることにした。
「凄いコト、って? 僕、腰痛くないし脚もぐらつかないしキスより凄いことしたとは思えないんだけど?」
「それさぁ、俺が上手いから痛くない、って解釈していい?」
クローゼットの扉に背中を預けて不敵に微笑むこの半裸の男…嫌い。
僕は思わず引きつりそうになる頬を片手で擦り宥めると肩の力を抜く。
平常心、平常心……
「ヤってないから、痛くないんだろ。そもそも、僕なんで君の家にいるんだ?」
「全裸なのに?」
「……酒を零したんだろ?」
「信じちゃうんだ?」
……駄目だ、やっぱり話にならない。
それでも会話を切る訳にはいかない。
どうにかして話の糸口を掴まなければ、時間を無駄にすることになる。
「……なぁ、俺を覚えてないかって聞いたよな? 残念ながら僕は君を知らない。昨夜会ったばっかりだろ?」
落合が切り出した問い掛けを遡り拾って答えると、ふっと薄く笑って僕を見る落合の表情が和らいだ。
「俺、お前と同じ大学通ってて、更に何度か専攻一緒になったときあるんだけど…本当覚えてないんだなぁ」
「ぅえ……?」
まさかそんな所で繋がっていたとは思いもせずに思いっきり間抜けな声を出した僕に、落合は大爆笑した。
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