逃げた夜

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3年、住んでいた部屋を玄関前の廊下から眺める。 脇にある浴室も、前方のドアからのぞくリビングも。 どこもかしこも思い出で溢れていた。 これから僕の取る行動への後ろめたさが、足を廊下へ縫い付ける。 それでも僕はここから出なければいけない。 過ごした思い出が頭の中を過ぎる。 僕は頭を大袈裟に振ってそれを霞ませ、その勢いでスニーカーを履いて部屋を出た。 合鍵で鍵をかける。 ドアノブの下にある、重厚なドアと一体化した郵便受けの入れ口と、しばらく睨み合った。 鍵を冷えた手で握る。 今なら、後戻りできる。 でも、しない。 郵便受けを開いて、鍵を投げるように入れた。 ガチャン、と音がして受け皿と鍵がぶつかった。 その音が思わず大きかったこともあり、後ろめたさに僕は走り出した。
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