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『それで、どうなった』
裸身の男は、先導する女に対して静かにそう問うた。
銀の輪の杖を揺らしながら目の前を、白い衣の女神が真珠色の林の中をゆっくりと歩いている。
「その後、彼と再び相見えることはありませんでした。疲弊し傷ついたあなたは、森の中で罠にかかり、頭を矢で貫かれて絶命したのです」
『……そうか』
長い長い話の間にすっかり乾いた白髪を揺らしながら、男は眉間にしわを寄せた。
話されたのは自分の生きてきた道であるはずなのに、まったく他人の物語を聞かされているような感覚。
そこに感慨や共感や、一切の情を差し挟む余地はなかった。彼にはただ、客観的な情報を与えられたに過ぎない。
そこから、生前の自分の罪状とやらを導き出すのは、やはり困難なように思えた。
ある視点から見れば、それは確かに罪にまみれた人生だったろう。他人の命を奪うことで生き長らえ、ヒトの法では一般に罪とされ、罰せられるような事ばかりしている。
しかし別のとある視点からみれば、罪を問うことはできないような人生でもある気がするのだ。運命に翻弄されながら、自分が生きるために必死にあがき、最大限の命を燃やして尽きていった。
だがそのような、ヒトの考えを基準とした考えに当てはまるような罪ではないのだろう、と男は考える。
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