Ⅴ 静夜

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  そう思うのは、ヒトが定めている「世界とはかくあるべき」、という規範がここにはないような気がするからだ。 自分は、ここに“生まれた”が、実際には“死んで”いたという。 つまり、いまは生者ではない。 だが、先導する女が自分を示して言う“マナサ”というのは“生まれる前の状態”のことだというから、死者ともまた違うのだろう。 審判とやらが終わるまでは、とても曖昧な存在だ。 そしてこの世界のことを知り、先を行く女は自分の知識の上に在るような種類のヒトではない。 仮初めの名は女神の名だという確信がなぜかあるが、しかし神や精霊というような精神論の産物とは違う。 彼女自身は“牢獄の看守”だと言った。 周りに沢山ある白い繭の中には、自分のように罪人と呼ばれるモノが入っているという。ということは、自分が認識できる限りこの“世界”自体が牢獄なのだ。 更に、記憶や五感や力といったヒトをヒトたらしめるものが“取り上げられ”た上での審判。 罪に応じて無くすものが増えると言うのは、暴れぬようにつけられた枷であると同時に、反応を見るための審判材料のようでもある。  
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