旅立ち~理沙篇~

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「戦争か…」  迷彩服を脱ぎながら、 黒髪の女性は独り呟く。 彼女は自ら志願して 自衛隊に入隊し、今日、 ようやく一年間の訓練を 終え、タイへ向かう準備と 家族に別れを告げるために 自宅へと 帰ってきたのだった。 「ねぇ、理沙。 家のことは私たちが なんとかするから、 今からでも辞退したら?」 彼女の母親は涙目で 娘を見つめた。その発言と 母の目に理沙の決意は 揺らいでいた。しかし、 両親がどれだけ頑張ろうと なんとかならないのは 目に見えていた。 「私は日本を守りたいの。 確かに、借金のことも 少しはあるけど、 全部自分で決めたことよ。 じゃあ、準備してくる。」 そう言って、理沙は 逃げるように 部屋へと駆け込んだ。  部屋には ロングヘアーだった頃の 写真や天体望遠鏡が 雑多に置いてあった。 しかし、彼女の母親が 手入れしているおかげで 辛うじてほこりは 被っていなかった。 「この部屋ともお別れか…」 誰に言うわけでもなく呟き、部屋を片付け始めた。
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