旅立ち~理沙篇~

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「岩崎理沙です。将来は天文学者になりたいです。」 彼女はそう言って紹介を終えた、あるいはそのつもりだった。しかし、なかなか次の発表は始まらず、不審に思った彼女は後ろを振り返ると、クラスのほとんどが笑っているのに気がついた。 「今時、天文学者ってバカみてぇ。」  誰かがそう呟くと、笑いを堪えていた生徒たちは一斉に吹き出した。彼女は救いを求めて担任の方に目をやるが担任も笑っていた。 「いやぁ、岩崎。お前は先生が思っていたより面白いな。今では、天文学者なんて必要とされない時代だって判っているだろ?」  追い打ちをかけるかのような担任の発言に理沙は泣きそうになっていた。しかし、そんなことに気付かない担任は言葉を続ける。 「星なんか眺めたって、誰のためにもならん。それより…。んっ?」 担任はそこで言葉を止めた。それは決して、理沙の涙に気付いたからではない。担任の方へと近づいていく男子がいたからだ。 「なんだ、坂田。トイレなら勝手に行っていいぞ。」 担任の言葉にただ首を振り、坂田は口を開いた。
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