72人が本棚に入れています
本棚に追加
シェン、ランリの二人が旅立った翌朝。グレンジムの物置の一角で、一人の少年が目を覚ました。
「んー、よく寝た」
伸びをして、物置の低い天井に頭をぶつけないように立ち上がる。ここは五歳の頃、このジムに引き取られてからずっと彼の寝床だった。しかし、そんな寝床とも今日でお別れである。
「いよいよ俺も旅にでるんだ。よっしゃ、気合い入れていくか!」
勢いよく物置を飛び出すと、十二年の間毎日拝んだ朝日のようなハゲ頭にサングラスが見えた。
「おはようっス、カツラ師匠」
「ショウ!何をしているんだこんなところで!」
「へ?」
「へ?じゃない!さっきオーキド博士から連絡があったぞ。昨日が旅立ちの日だったそうじゃないか!」
「げっ、マジ?」
少年、ショウは数日前に送られてきた通知を物置の奥から引っ張りだして確認した。そこには確かに前日の日付が記されていた。
「うわっ、マジだ」
「早く支度せんか、このアホ弟子!」
「わかった、四十秒で準備する」
ドタバタと騒がしいグレンジムを、近所の人は微笑ましく思っていたとかいないとか。
とにかく支度が整ったショウを、カツラはグレン島の海岸に連れてきた。そしてモンスターボールを解放する。
「研究のために借りたラプラスが役に立つな」
ボールから出てきたのは、人を乗せるのに丁度いい甲羅を背負ったラプラスだった。カツラはショウをラプラスに乗せると、はっきりと命じた。
「全速前進」
ラプラスは研究所育ちなので加減を知らない。結果、時速百五十キロものスピードで海を渡りだした。
「うわーーーーーぃ」
遠くなっていくショウの叫び声を聞きながら、カツラは、ショウがマサラに着く前に人生が終了しないことを祈るのだった。
最初のコメントを投稿しよう!