プロローグ

2/8
371人が本棚に入れています
本棚に追加
/282ページ
「まぁ~!見て、パパ!窓から海辺が見えるわ!!」 「素敵だねぇ~、ママ!」 大きな窓のカーテンを開けて、両親がミュージカル並みに手を取り合っている。 彼らの眼下に広がるのは、初夏の太陽にキラキラ光る海。 ……ただ、残念なことにこの光景は、引っ越してきた昨日にも見たものだ。 「樹、花!2人もここに来て見てごらん!」 満面の笑顔を浮かべて振り向く父親を見ながら、ボクはパンを頬張って、 「……うん。ボクは後でいいよ」 小さく答える。 「どぉしてよ?この海辺のマンションはパパとママの夢だったのよ!?さぁ、花ちゃんも一緒に……」 ママの声に、ボクの左隣に座った女の子は無表情のまま、 「……浮かれすぎじゃない?」 ボクと全く同じ顔でそう呟く。 ママは思い切り心外、といった様子で頬を膨らませながら、 「もうっ!どうしてアタシたちの子供なのに、こんなにテンションが低いのかしら?」 「まぁまぁ、ママ。僕らに似て可愛いからいいじゃないか……」 ハッハッハ、と笑う2人は、丸っきり安いホームドラマの夫婦そのもの。
/282ページ

最初のコメントを投稿しよう!