25人が本棚に入れています
本棚に追加
「理由はねぇって言っただろ…」
男はふぅと煙を吐いたあと、咥え煙草のまま答えた。
煙はゆっくりと風に流れて、闇夜に消え入る。
「まぁ…あるとすればテメェの顔が見たくなった…だろうな」
は?
今、コイツなんて言った?
清々しい顔をして、とんでも無い事を言ってのけた男は、二本目の煙草を取り出し、火を点けている。
俺はと言うと、煙草を持たない変わりに自分の顔を火が点いたかの様に紅くさせてしまった。
「なんだオメェの顔、風呂上りなのか?」
こればっかりは不可抗力だ。
こんなデリカシーもあったものじゃないヤツの一言で惑わされるなと、自分を叱咤しながら、顔をパシパシと叩き染まった頬を戻そうとする。
「これは最近ちまたで流行りの美顔体操してんだよ」
とりあえず思い付いた嘘で誤魔化すと、男は何かを感じ取ったのかニヤリとした笑みを浮かべて、三本目の煙草に火を点けた。
どうでもいいが、かなりのヘビースモーカーだ。
一本を吸うのに一分も掛かっていない…一回だけで吸い終わっているのではないだろうか。
そうやって、違う考えで頭を占領させ、高潮した頬を冷まさせた。
早くなってしまった動悸はまだ治まっていない様だが。
最初のコメントを投稿しよう!