スリーピングフォレスト

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   その森は、確かにそこに存在している。  だが、世界中の誰もそこに存在する事を知らない。誰も知らないからこそ、そこには平和な世界があった。  スリーピングフォレスト。  世界のどこかにある、深くて暗い人が踏み込めない森の奥に、ある特殊な種族の集落がある。  常緑樹が生い茂る森の奥には、二十ほどの小屋のような家が立ち並び、慎ましく人々が生活していた。  その小屋は、みすぼらしいものだった。  まるで、下界との交流を断つように。  スリーピングフォレストの集落、そこは魔法使いの人々が暮らす隠れ里。  魔法という特殊能力を活かせば、人の世に於いて絶大な地位を得られそうだが、集落の人々はそれをしない。  集落の中央にある樹齢数百年、天をも突き抜かんばかりの巨大な樅の木の前で、長く白い髭を垂らした一族の長老は語る。 「よいか、下界の人々との係わりは我らの滅亡に繋がる。それを望むなら、我らとの関わりを全て捨てねばならん」  長老の前で、若き魔法使いが虚勢をあげる。
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