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しかし、人と人とが憎しみあうこの世界に少年が安らげる場所など、当然のごとく在りはしなかった。
行けども行けども血の匂いが漂い、暗く闇に閉ざされた世界。
少年は十数年しかまだ生きてないがすでに疲れていた。
常に誰かから追われる身であり、やってきた者は幾度となく殺してきた。
少年は、望んだ形とは別の形で孤独だった。
それは少年自身も自覚しており、それをふまえた上で安らぎの孤独を望んでいるのだ。
これまでにどれだけ涙を流したのか、どれだけ手を血で染めてきたのか……それはもう少年さえも覚えてはいない。
ただ、その人生の中で流す涙は全て流し終えて枯れ、殺すことへの抵抗ももはやありはしない。
だから少年の心は堅く閉ざされている。
何に対しても必要以上の興味心はなく、何もかもを敵と見なす。
それを悲しいことと言わず何と云う?
しかし、少年は異世界の存在を夢見ていた。
……いや、信じている。
だから少年が幻想郷へ行くことになるのは必然だったのかもしれない。
一体何人目の人間を殺したのか……。
そんな考えは頭の片隅にも存在しない少年は、終焉のこの世界をあてもなく歩き続ける。
だが、もうそれも限界だった。
少年は砂だらけの地面にドサッと力無く倒れる。
いつも逃げ回るだけの日々である少年は、ろくに食事をとることもできずに世界を歩き回ってきた。
栄養の不足による身体的な限界と、疲れきった心と腐りきったこの世界の居心地の悪さによる精神的な限界が、一気に押し寄せてきたのだ。
もはや立ち上がる気力もない少年は地面と水平な視線で遠くを眺める。
その視界はしだいにぼんやりとしていく。
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