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自分はもちろん悪いことをしたことがある。
それが深いことだったにせよ、浅いことだったにせよ、関係なくしてのことであればという仮定の話の中でなら。
詰まる所、自分は人間の価値観から見ればそれほど罪とよばれる事象に慣れ親しんだこともなかったし、または関わったこともなかった。
でも、それは飽くまで人間の都合。神の都合ではなかったのだ。
ここでいくら自分が罪を犯してないと叫ぼうともその声は一向に届きはしない。
こちらが人間の都合であるならば、それが神の都合であるのだろう。
なら仕方ないのか。ふとそう思いかけて思いっきり首を横に振った。
神の都合があるなら、人間の都合を突き通せ。
これは逆襲だ。自分の運命を操った神への。或いは抵抗だ。
砂埃が舞う。
周りを囲むのは水分を失ったようで保ったような、そんな塵。
土を風化させた存在であるそれを集めた砂漠、燃え上がるほどの熱を帯びていそうな蒸気。
そして、その大地に降り立つように自分を包囲する武装集団。
さあ、こんな場面を戦闘経験の皆無な日本の元高校生の一人に切り抜けられるとお思いで?
無理に決まっている。
そも、無理難題なことじゃなかったら神がどうとかは多分言わない。
それが例え異世界に飛ばされた身、だったとしても……だ。
深呼吸する。
こんな時に深呼吸なんてしている場合じゃないんだけれども。
相手は勇者、それくらいの慈悲は許してくれてもいいような気がする。
勇者一行と睨みあう中、勇者パーティーの中の一人、剣を持った男が足元を踏み鳴らしたと同時刻、自分の前に人影が見えた気がした――
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