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「多分俺、疲れてんだ。今日はもう寝るよ。……お前も、早く寝ろよ」
俺はそう言って、愛栖に背を向けた。体を横にし、枕の下に手を添えて目を閉じる。
だが愛栖は、俺のパジャマをギュッと握り締めて俺の名を呼んだ。
「か、和樹……怒らないで……よ……。和樹は、悪くない、悪いのはあたしなんだよ、だから和樹、……ごめん…………」
今にも泣きそうな声で、ゆっくりと俺の体を揺さぶる愛栖。
ゆっくりと体を逆方向に向け、愛栖の方を向く。
愛栖の寂しそうな顔が、俺の目に映った。可愛らしいには可愛らしいが――こんな顔は見たくない。
そしてその原因を作ったのは、間違いなく俺だった。
「……怒ってないから。な?」
せめて安心してもらえれば、と、俺は愛栖に向けてそう言う。
だが愛栖は、まだ首を横に振った。「ん?」と声を出すと、愛栖は小さく小さく、こう言った。
「怒ってる……。いつもの和樹はこういう時……頭撫でてくれるし、抱きしめてくれるもん……」
「…………」
いつもそんな事してたんだっけ俺? と自身で疑問に思いながらも、今の愛栖はそうしてやらねば不安も解消出来ないんだろう。
だから俺は、その長い髪に包まれた頭に手をかけ、自分の体の方へと引き寄せた。
全く、母親に甘える子供みたいな奴だ。
愛栖は拒絶せず、寧ろ自らの意志で俺の方へと更にくっついてくる。
「和樹……」と、胸の中で声がする。愛栖のか弱く綺麗な声だ。
呼んだと言うよりは、何かを確かめるみたいに口にした感じだった。
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