第一章:始業式

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 俺はこうやって愛栖をあやしながら、ふと思った。  例えば愛栖と武岡が付き合う事になったら、俺はもう愛栖と毎日一緒に寝る事も、止めた方が良いんじゃないだろうか。  こうして抱きしめるのも、頭を撫でてやるのも、……一緒に寝てやるのだって、全部武岡の役目になる訳だ。  か、勘違いするなよ! “寝る”ってのはそっちの意味じゃないぞ!  と、ともかく――俺は愛栖の家族としての存在でもあるわけだけど、こうやって一緒に寝る事だって、武岡的にはアウトだろうし、愛栖だって中途半端な気持ちだと勘違いされるかもしれない。  まぁ武岡に見られなければ問題は無い……けど、こういう事も、今後はやめるべきなのかもしれない。  ていうか、愛栖が明日返事をするのだとすれば、今日が最後って事になるじゃないか。  ……まぁ、よくよく考えれば、俺達は別に付き合ってる訳じゃないし、だからどうしたって感じではあるけど。 「和樹……?」  愛栖が、今度ははっきりと俺を呼んだ。こんなに近くで愛栖の声を聞くのは、もう最後か……?  そんな事を一人思いながら、俺は「ん?」と聞き返す。 「……これからも、ずっとあたしの傍に居て……くれる、よね……?」  まるで核心をついたような、愛栖の質問。だが、それ程驚きもせず――  結局俺は、何も答えなかった。          
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