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開始当初は長く感じる夏休みも、終わってみれば実にあっけない。
大抵の奴が揃って口にする感想は、「短かった」というものだと思う。
充実した時間を過ごしている人間にとって、過ぎ行く時ってのは短く感じられるもんらしい。
人にとってどんな時が充実してるって言えるのかは違うんだろうけど、少なくとも俺にとって、この夏休みは充実してたね。
その一番の理由は――恐らく今隣で寝ぼけ眼を擦りながら、気だるそうにブラッシングしている“コイツ”が居たからに他ならんのだと思う。
ちっちゃくて細い体をドレスみたいな白いワンピースで包んだ彼女は、今でも時々疑ってしまうんだけど俺と同い年。
腰辺りまである柔らかそうな茶髪をふわっと揺らし、未だ虚ろな瞳で俺を見上げてきた。
多分俺が見ていたからだろう。
「んん……どしたの、和樹?」
ひたすら眠そうに、起きるのをぐずっている子供みたいな声でそう言うのは、御坂愛栖(みさかあいす)。
歯ブラシを動かすのを止めて、じっとこっちを見詰めている。
歳の割に幼く、あどけなさの残りすぎているその顔は、凄く可愛い。
口に出しては言わないけど、見てくれの可愛らしさでコイツに勝る奴を、俺は知らないかもしれない。
「……いや? 眠そうだなぁお前」
俺は愛栖に向けそう言った後、二、三回水で口を濯(ゆす)いだ。
その後、鏡を見ながら髪を整える。まぁ大した事はしないけどな。
「眠いのは当たり前だよ! あたし達殆ど寝てないし!!」
愛栖は怒ったみたいにそう言った後、俺と同じく口を濯ぐ。
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