9人が本棚に入れています
本棚に追加
「諦めるんですか?」
一瞬、それが誰の声かわからなかった。
振り返る。
「諦めるんですか?」
間違いなくそれはももかの口から出た言葉。そもそも、この場にはあたしとももかしかいないのだから、あたしが出さなきゃ彼女しかありえない。
なのに、あたしは一瞬、それがももかの声だとわからなかった。
「夢を諦めちゃっていいんですか?」
さっきまでの可愛らしい印象は声からも表情からも感じ取れない。どこか大人びたようなももか。
その突然の変わりようが、一瞬“ももか”を“ももか”とわからなくさせた。
「簡単に、諦めちゃっていいんですか?」
より強い言葉が投げかけられる。
「……簡単だって? 簡単じゃないわよ!」
怒鳴るつもりなどなかった。でも湧き上がる感情をこれ以上抑えることができない。
「悩んだわよ! 嫌なほど……たく、さん……たくさん……たくさん悩みまくったわよ!」
体内の汚物を吐き出すかのように、あたしは声を荒げて言い続ける。
「あたしじゃ無理なの! 頑張ったって夢は掴めない。無理だってわかったら……あたしは……あたしぃ……は……」
俯き、感情を抑え込む。
ちょうどいい具合に冷たい風が吹いてくれたお陰で、クールダウンはしやすかった。
「あなたには関係ない。……関係……ないんだから」
吐き捨てるようにももかに言葉を投げる。
ショックだったのか、ももかは俯いたまま微動だにしない。
ごめんね……と去り際に言葉を残して、あたしは出入り口へと足を進める。
あたしから語ることも、返す言葉は最早ない。
「わかりました」
だから彼女がどんなことを言ったところで、あたしは言葉を返さない。
「なら勝負してください」
「はい?」
……はずだったが、彼女の意味不明な言葉に、思わず素っ頓狂な声で答えてしまう、あたしがいた。
最初のコメントを投稿しよう!