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心の中がもやもやする。理由はわからない。だから苦しいし、いらいらする。
いや、理由はわからなくても、そのわからないもやもやを作った元凶は知っている。
“立花ももか”。
それがこのもやもやの原因を作り上げた張本人。
あたしが彼女に関して知り得ている情報は少ない。
昨日のコミケにてあたしの同人誌を買った唯一のお客であり、今日あたしが在籍する高校に転入してきた美少女。
そして、たまたま昼寝をしていたあたしと偶然出会した、あたしの絵のファン。
正直なところ、ももかから言われたことの大半はあたしを嬉しくさせるものだった。
久々に同人誌やっててよかったかな、なんて思えた瞬間。
でも、それはあまりにも遅すぎた言葉。
欲しいと求めた時には得られなかった言葉が、諦めた今になって得られるなんて、どんな皮肉で嫌みなんだろうか。
加えて夢を諦めたあたしに向かって諦めるんですか? と訊いてくるし。
あの時のももかには幾分驚かされたが、あたしはそれを訊かれて剥き出しの感情……ある意味では八つ当たりだったかもしれない言葉をももかへと打つけていた。
言い過ぎたとはその時は思った。だけど、あの子はへこむどころか、あたしにあらぬ挑戦を持ちかけてきた。
『次のコミケにわたしも参加します。勝負は売り上げ金もしくは売れた部数の多い方が勝ちです』
本気で言っているのか疑ったが、ももかのあの目はマジだった。あの子は本気であたしに勝負を挑んだのだ。
『瑞希ちゃんが勝ちましたら、わたしも潔く諦めることにします』
でも、と言葉を紡ぐももかのその声色には、なんとも言えない気迫。だが、
『わたしが勝ちましたら、その時はもう少しだけ、頑張ってみてくれませんか?』
続く言葉はあまりにも優しげな……まるで、ほんとに、心からあたしの夢を応援してくれてるかのように、温かすぎるものだった。
込み上げてくる嬉しさに似た感情を抑え込み、それを悟られまいとあたしは苛立った口調で返答する。
『いいわよ、勝負してやるわよ』
勝負は三ヶ月後のコミケ。勝敗は売上金の高い方が勝ちとすることになった。
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