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「あの~?」
「あ、ごめんなさい。えと、三百円になります」
「三百円、三百円と~」
小さな財布から百円玉三枚を探す仕草が可愛らしく、思わず見つめてしまう。気を抜くと涎を垂らしてしまいそうだ。
「あ、ありました」
取り出した三百円をあたしは受け取り、一応あっているか確認する。
「三百円ちょうど確かに。ありがとうございました。あ、買ってくれた記念に、これオマケ」
余り物のポストカード数枚を彼女に手渡す。
「いいんですか?」
「ええ」
どうせ余り物。このまま捨てるなり、仕舞っとくくらいなら、あげた方が商品としては嬉しいだろうし。
「ありがとうございます」
にこやかな笑みを浮かべ、女の子はポストカードを受け取ってくれた。
あ、気を抜いたら涎が……。
垂れそうになった涎をすぐさま袖で拭う。
そこへ。
『只今の時刻をもちまして、第三十回コミックマーケットを終了と致します。お忘れ物などないよう確認してお帰りください。繰り返します。只今の時刻を……』
終了を知らせる放送と共にあちこちで片づけする音が聞こえ出す。
「あれ?」
いつの間にか女の子の姿は消えていた。あたしが放送に耳を傾けている間に移動したのだろうか。
「ん?」
ふと、テーブルに目を向けるといつの間に置いてあったのか、テーブルの上には桃の花が描かれた一枚の便箋(びんせん)が置いてあった。
便箋には短く、
『頑張ってください(≧∇≦)』
と顔文字つきで書かれていた。
どうやらさっきの女の子が置いていった物みたいだ。
わざわざ置いていくなんて変わった子。まあ、嬉しくはあるけど。
便箋を綺麗に折りたたみ、漫画用のネタ帳へと挟む。
「さてと、ささっと片づけしちゃおっと」
そう自分に言ってテーブルに残った品々を片づけていく。
にしても……。
「はあぁ……………………」
テーブルに残った売れ残りを見ながら、あたしは今日一番の深い溜め息を吐く。
「赤字だっつうの……。はぁ……」
本日の『花見酒』。サークル売上金、三百円。
今までで一番の売れのなさだった。しょぼん……。
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