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「夢を諦めるってこと?」
「そんなとこ。まあ、すぐにはやめないけど、次のコミケで終わりにしようと思うわ」
「そっか……残念だな」
「そう思ってくれるだけ、ありがたいわよ」
もしそう思ってくれる人がいなかったなら、あたしはもうとっくの昔に諦めていただろうから。
「やめてもコミケには参加するよね?」
「うん」
漫画家を目指すこと、サークルをやめることは、コミケに参加するとは別な話。お気に入りサークルの同人誌が買えなくなるのは嫌だし、コミケ友達との交流がなくなるのも嫌だ。
あそこはいるだけで楽しいあたしの楽園だ。まあ、お金の消費は結構かかるけど。
「ならば一緒にコスプレイベントなんていかがですか? あなたはなかなかの人材ですからね」
「まあ、keyキャラのコスならやってもいいけど。それよりなんで口調ジェイドよ?」
「キャラに対する愛情ですかね」
まあ、同じオタク仲間としてその愛情は理解できる。
「う~ん、ミズキーの容姿から考えるに杏や河南子がぴったりかな。それじゃ、近いうちに作っておくから、できたら試着してね」
なんか話が勝手に進んでいるが、特にあびにゃんの言った内容に拒否る点はないので頷いてそれに応じる。
できれば舞やことみのコスをしたいとこだけど、自分であわないって理解してるから、あびにゃんの見通しは的確と言える。
「はいはい。それよりそろそろ授業始まるから教室に戻ったら」
「うわっ、ほんとだ!? んじゃんじゃ、また後で~!」
慌てて教室を去っていくあびにゃんを見送り、あたしは次の授業の準備に取りかかる。
これでよかったんだよね、あたし。でも、ごめんね。諦めちゃって……。
夢のために頑張ってきた今までの自分に、あたしは思わず心の中で謝っていた。
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