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家の前で葵と別れ、俺は自宅の玄関をくぐった。
キッチンからはお袋が晩飯の準備をしているのか、空腹をくすぐる匂いが漂ってくる。
匂いに釣られたわけではないが、まっすぐにキッチンへ向かう。
さっき走り回ったせいなのか、のどが渇いている。
「ああ、お帰り」
「ただいま」
俺が帰ってきたことに気付いたお袋が声をかけてくる。
それに応えながら冷蔵庫から適当に飲み物を出す。
「そうそう、雛子ちゃんが来てるわよ」
「は?」
あのー、雛子ちゃんって誰でしょうか?
もしかして、菊池雛子とかいう人でしょうか?
「は?じゃないでしょ。あんなに毎日会いたがってたじゃない」
まさか…
とっさに、俺は自分の部屋に向かった。
「お帰りなさい」
いた!
「な、…何でここにいるんだよ!」
そこに座っているのは間違いなく、あの菊池雛子と名乗った少女だ。
背中の中ぐらいまである長い髪。
歳は恐らく俺と同じぐらいだ。
「決まってるでしょ。私はあなたの許婚よ。家族公認の仲じゃない。まぁ、便宜上そうしてるだけだけど」
許婚だと!?
なぜだ?
Why?
便宜上って何だ?
さっきお袋は、この少女のことをさも以前から知っているかのように話した。
ということは、おそらくこいつは、俺以外の人間に何らかの情報操作を行ったものと考えられる。
記憶を書き換えたということだ。
しかし、なぜ許婚?
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