Breath of tohubohu

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 人垣から透かし見る朔磨の横顔は、たった今彼がホテルの中でしていた所業を思えば、あまりに静かなものだった。血の昂ぶりも後悔もなく、愉悦すら存在しない。  人としての情すら、既に疑わしいと思っていたが、どうやら完全に心は悪魔と化しているらしい。  首相が朔磨を容認しようとするまいと、殺すつもりだったに違いない。云霞には、それが分かっていた。云霞と朔磨は、根本が似ているのだから。  だがそれだけに、朔磨の行動はあまりに不可解だ。  こんなことをして、彼に何の利益がある?  回鶻衆を使って発展途上国の貧民層や、長く虐げられてきた人々を救うことは、彼への信頼を高めるに当たり、欠かせない段階である。これは納得出来るものだ。  だが、代わりに国内での信頼をわざわざ貶めようとしているようにしか見えない行動の数々は、一体何なのだ?  朔磨はコートに袖を通しながら、エントランスに車が回されるのを待っている。奈落の黒瞳は野次馬など視野に入れていない。彼に近付くべきか否かを躊躇う報道陣を一瞥すらしない。  云霞は、腹違いの兄弟の横顔を見つめながら、ただ、思った。  (朔磨、お前は……)  お前は一体、何を考えている?image=303602929.jpg
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