💠それでも君だけを愛してる💠

新生活と夢

始まりは秋。
中途半端な季節だった。
木の葉は、黄色やオレンジや赤に色づき、宝石のように町は彩っている。

そこに、ウエスタンブーツのかかとを、必要以上に鳴らしながら段ボールを引っ越し業者のトラックから運び出す少女の姿があった。

彼女は、５人兄弟の真ん中で、どっちかというと一番目や二番目の姉や兄のように厳しく育てられ、親に期待をされて育ったタイプではない。
かといって、末っ子の弟や三女の生意気な妹のように甘やかされた訳でもない。
真ん中は、いつだって放ったらかしだ。

今回だって、家出同然で実家を出て東京に来たのに、家族の誰ひとり心配してくれる者はいない。
もう、家を出て２２時間と３８分経ってるというのに…。

「あ～！！！モジャ！着いたんだ？！久しぶり～！」

やたらとテンションが高い長身の彼女は、現役読モ（読者モデル）の藤沢華（ふじさわ　はな）。
モデルになるのが夢で、東京に上京した美人で明るい華。

「ねぇ…。そのモジャって呼ぶのやめにしない？私、もうモジャじゃないし。」

そう言ってケラケラ笑う少女は、奥野風香（おくの　ふうか）。
どこにでもいるようなタイプではなく、少しだけあか抜けない雰囲気の女の子。

「ねぇ、モジャ。」

「だから、誰がモジャやねん！」

「何で、関西弁？マジ、ウザ～。」

目を細めてわざと風香を睨む華に、風香はケラケラ笑った。

「いいじゃん！モジャはあたしの中でモジャなんだから！ね？」

そういって、肩をすくめて笑う華に風香は折れた。
いつだってそうだ。
高校で知り合った二人は、まったく違うタイプの人間だったのに親友だった。

綺麗なのにそれを自慢しない華に、風香は惚れこんでいるのだ。

「ねぇ、あたし達会うの何年ぶり？…２年？」

無邪気に華が風香に質問すると、風香は重い荷物をアパートの３階まで運びながら答えた。

「確か…３年かな？」

「ぇえ？！もう、そんなんだっけ？！早いね～…。」

華が、重そうに顔をしかめている風香から一つだけ荷物を持ってやった。

息切れしながら「ありがとう。」とお礼を言う風香に、華は「いいの！」と笑顔で返した。