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路面の肌を灼熱の日差しが毎日のように焼く。人々は個々の方法で体温を下げ、日差しを避け、文明の進歩と人類の知恵が編み出した冷房器具を駆使し、日々を過ごした。
そう、そんな夏は終わったのだ。
海沿いに面した小高い丘。眼下に穏やかな海を収め、手前に広がる住宅街。
高層マンションの類が無いのは、住民の熱心な反対運動の賜物ではない。点々と小規模なビルが見受けられるのが物語るように。
理由は他にある。
住宅街を囲むように生い茂る木々の数々。それらを避けるよう迂回し、小高い丘に登ると建築関係者は口々に声を揃え、観念したように規模を縮小するよう自主的に申し出るという。
また初めてこの街を訪れた者は、その景色に心奪われ魅力を知り、感嘆の声を漏らすことになる。
特に四季の中でも秋の眺めは絶景と評される。
姿を変えぬ住宅街を色彩鮮やかな紅葉樹林が彩り、それらを圧倒しまた優しく包むように広大な海岸が線を延ばす。
そう、それがこの街が姿を変えず皆に愛される所以である。
その絶景を一年中眺めるように、市立図書館は丘の上に鎮座している。
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