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都心から少し離れた場所だ。栄えても寂れてもいない、そんな中途半端な場所にそこは存在している。
電車とバスを乗り継いで約三十分。古びたビルはいつもの場所にいつものように建っていた。壁面には所々亀裂が走っている。これならいつ倒壊してもおかしくないんじゃないか、と俺は思っている。だがそんな心配はよそに、今日もこいつはいつものようにその古びた壁を世間に見せつけていた。
このビルにエレベーターなんて上等な物ここには存在しない。コンクリートが打ちっぱなしのままの階段を上がり二階へ上ればそのドアは現れる。
古びた空間にはそぐわない、クラシックな外開きのドアだ。
「お早う御座います。」
「ああ、お早う。」
営業中とは違い明るい店内だ。それでも店内の内装や家具は黒を基調としているせいか薄暗い印象をうける。
そんな中カウンターに立つ一人の若い男。この店の店主だ。
「今日は早いんですね?」
言いながら俺は腕時計を見た。週末の今日、開店は普段より一時間早い十九時だ。マスターが現れるのは決まって開店の二十分位前で、先に来ている俺が行った準備のチェックをするだけのが通例だった。
「仲間とここで朝まで飲んでてさ。さっきまでそこで寝てたんだよ。」
そう言って彼はグラスを拭きながら顎でソファを指した。
確かにソファの位置が少しズレている。
ソファの位置を戻し、カウンターの中へ入る。
「もうしばらくは酒はいらないな。」
「裏の準備してきます。」
困ったように笑うマスターを背に、俺は前掛けを付けながら厨房へ向かった。毎回同じ事を彼は言うが、酒を飲まなかった所を俺は未だに見たことがない。おそらく二十三時を過ぎればまた頬が赤くなっている事だろう。
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