第三章。

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狭い厨房だ。けれどここで作業をするのは普段俺一人だ。それに加え来店する客は飲みがメインの人ばかり。更にこの厨房で作るのは殆どが軽食。しかもそれも営業中数える程。故にさしてこの狭さに問題はない。 冷蔵庫を開き中を確認する。A4サイズのファイルの中を見ながら一品一品レ点を入れていった。 「…よし、と。」 ファイルを閉じる音と共に食材の確認を終えた後はドリンクだ。リキュールやらの在庫を確認すれば開店の準備は八割方終わりなんだか… 「奏日。」 ホールからの声に俺は顔を上げた。 「はい。」 厨房とホールを仕切る黒い布を捲り顔を出した。マスターは既にカウンター席の一角を陣取り茶色の液体が入ったグラスを傾けていた。 「リキュールの確認は終ったからさ、ソフトドリンクの方頼むよ。」 「……。」 ニッと笑いながらマスターはまたグラスに口を付けた。茶色の液体はマスターの口の中へと流れていく。 「マスター…それ…」 「ん?」 「いえ。ソフトドリンクですね。」 ドリンク用のファイルをレジ下の引き戸から取り出しそれを開いた。羅列されたドリンクの項目は見事に真っ白だった。 「あー後奏日。」 「はい?」 カウンター下に備え付けられた冷蔵庫。開きかけたドアに手を置いたまま顔だけを出せば空になったグラスをマスターが揺らしていた。 「おかわり。」 .
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