4人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
***
「おいしいですねー! わたし、スタバって初めてなんです!」
目の前に座る女はそんなことを口にする。
結局、オレがここまで案内する羽目となり、そのまま無理やり奥の座席まで連れて行かれた。
ストローを口にくわえ、甘ったるそうな生クリームの乗ったコーヒーを飲む女に、オレは奢られたブラックコーヒーを口に含む。
「でもブラックですか……大人ですねー……あ、大人の方ですか?」
「……19だ」
“あ、同い年だ!”と笑う女にオレはまたコーヒーを口に含む。
何を話したらいいのか分からない、というのが正直な気持ち。
無理やり振り払えばよかったのに、“久しぶりに見た笑顔”に何も出来なかった。
ズーッと音をたてて飲む姿は幼く見える。
それを口に出して言ってやれば、
「別に気にしません。わたしには周りが見えないんで」
などと言う。
それからしばらく女が一人話し続け、一段落つくと、“ふう……”と小さく息をついた。
「──ありがとうございました」
「は?」
突然、また脈絡なく謝られた。
意味が分からないと言えば、女は笑顔で口を開く。
「嬉しかったんです。助けてくれて。ほら? わたしって目が見えないでしょう? 杖をついて歩けばみんな離れて行くし、人に当たるとすれば、当たった相手は舌打ちして行っちゃうんです。だから助けてくださって嬉しかった。立ち去らずにいてくれたことが嬉しかったんです」
笑う女にオレはまた言葉をなくす。
そして“そうか”と一人で納得する。
最初のコメントを投稿しよう!