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「あ! 遅いです!」
“いや、まだ予定より早いから”というオレの言葉は簡単に流され、むーっと頬を膨らまされる。
オレとコイツは“知り合い”となった。
あの日のあのあと、携帯の電話番号を聞かれ、断りきれずに教えた。
それから時折電話で会話する。
その程度の関係となった。
今日はコイツに頼まれて頼まれて、仕方なく付き添う羽目になった。
「ふふっ楽しみですね!」
何がと問えば、笑顔で答える。
「決まってるじゃないですか! 原宿ですよ!」
そう言うコイツに、オレはまた何も言えなくなる。
なんでも、“原宿”に行ったことがないらしく、行きたかったらしい。
“なら知り合いを誘えばいいだろ?”と言っても、オレも知り合いだ、と笑顔で返された。
「ほらー、早く行きますよ!」
強く腕を引かれ、駅の改札をくぐらせられる。
コイツに強く出れないこのオレが、周りからは避けられるなんてずいぶんと馬鹿らしい、などと思いながら。
***
「すごいですね!」
何がすごいのか。
ただ人がたくさんいるだけ。
まあ周りには寄ってきてねえが。
「楽しみです! この歳になって原宿デビューなのが恥ずかしいですが!」
そりゃ、よかったな。
オレの小さく呟いた声も聞こえていたようで、“はい!”と元気よく笑顔で頷く。
それからはただ色んな店を見て回った。
食べたいと騒ぐクレープ屋までついていったり、見たいと話す服屋まで付き添ったり。
ふと、アイツが服を見てる間、オレも店内を見て回る。
なるべく人のいない方へいない方へと進んでいったとき、一つのものが目に入った。
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